法人登記とは何か|個人事業の開業届と、何がどう違うのか
法人登記と個人事業の開業届は、手続きの重さも意味もまるで違います。会社設立では定款を作って登記をする必要があり、そこが個人事業との一番大きな分かれ目です。
いま個人事業でやっているが、会社にしたほうがいいのか迷っている人。あるいは、これから始めるにあたって個人か法人かを決めかねている人に向けた記事です。税金の損得ではなく、手続きの側から見て何がどう変わるのかを扱います。すでに会社にすると決めている人は、設立登記の流れを扱った記事に進んでください。
開業届は税務署に1枚出せば終わります。会社設立はそうはいきません。定款を作り、資本金を払い込み、登記を申請する。費用もかかれば日数もかかります。この差がどこから来るのかを知っておくと、個人のままでいくか法人にするかの判断がしやすくなります。
法人登記は「会社を作る手続き」そのもの

法人登記とは、会社などの法人についての決まった事項を法務局の登記簿に記録する手続きです。商業登記とほぼ同じ意味で使われます。会社設立のときにする登記は、正確には設立登記といいます。
大事なのは、これが「届出」ではないということです。開業届は、すでに始めている事業を税務署に知らせる書類です。出さなくても事業そのものは成立しています。会社設立の登記はそうではありません。登記をすることで会社が生まれます。登記をしないかぎり、その会社は存在しないことになります。
だから会社設立には、順番があります。まず定款という会社の決まりごとを作り、株式会社なら公証役場で認証を受け、資本金を払い込み、そのうえで法務局に登記を申請する。この順番を飛ばすことはできません。個人事業のように「今日から始めます」というわけにいかないのは、そのためです。
法人格という言葉が出てきますが、これは会社が人とは別の権利や義務の持ち主になれる、という意味です。会社名義で契約を結び、会社名義で口座を持ち、会社が税金を納める。個人事業では事業主本人がそれを全部引き受けていたものが、会社設立をすると会社という別の存在に移ります。
個人事業では、事業で使っているお金も生活のお金も、法律の上では同じ財布です。会社設立をすると、その財布が二つに分かれます。会社のお金は会社のもので、代表者が自由に使えるわけではありません。役員報酬という形で受け取り、そこに所得税がかかる。この切り分けが、法人格を持つということの実感としてはいちばん大きいところかもしれません。
登記される法人は会社だけではない
一般社団法人、一般財団法人、NPO法人、医療法人。これらも登記で成立する法人です。法人登記という言葉はこうしたものまで含みます。ただし作り方はそれぞれ違い、定款の認証の要否も変わります。
この記事では、会社設立——株式会社と合同会社のことを中心に扱います。
出典(解説)マネーフォワード クラウド会社設立「法人登記(商業登記・会社登記)とは?手続きの流れや必要書類」2026年9月15日確認
開業届と設立登記を、手続きの重さで並べてみる

実際に手を動かすところを並べてみると、差がはっきりします。個人事業の開業は、税務署に開業届を出すだけです。手数料はかかりません。郵送でもオンラインでも出せます。
会社設立はそうはいきません。まず商号と事業目的と本店と資本金を決め、それを定款に落とします。株式会社なら公証役場で定款の認証を受けます。資本金を払い込み、通帳のコピーを添えて証明書を作ります。就任承諾書や印鑑証明書をそろえ、申請書を書いて法務局に出します。

日数の差も見ておきたいところです。開業届は思い立った日に出せます。会社設立は、商号を決めて定款を作るところから数えると、早くても2週間前後はかかります。株式会社なら公証役場の予約が入るので、その待ち時間も足されます。登記の申請をしてから完了するまでにも、さらに1週間前後かかります。
この重さの差は、そのまま外から見た信用の差にもなります。登記をした会社は、商号も本店も代表者も資本金も公開されています。誰でも確かめられる状態にあるということが、取引の相手にとっては安心材料になります。個人事業にはその仕組みがありません。
逆にいえば、会社設立には引き返しにくさもあります。やめるときには解散と清算の登記が要り、こちらにも費用と手間がかかります。個人事業なら廃業届を出すだけです。始めるときの重さは、たたむときの重さでもあります。
出典(解説)freee「個人事業主と法人の違いは?13項目で比較」2026年9月15日確認
会社設立にかかるお金を、実費だけで見る

会社設立で必ずかかるお金は、登録免許税と定款まわりの費用です。司法書士に頼めばそこに報酬が乗りますが、ここでは自分でやる前提の実費だけを見ます。
登録免許税は、株式会社の設立登記なら資本金の額の1,000分の7で、それが15万円に満たないときは15万円です。合同会社は同じ税率で、最低額が6万円になります。資本金を小さくしても、この最低額より下がることはありません。
定款まわりは会社の種類で大きく変わります。株式会社は公証役場で定款の認証を受ける必要があり、手数料が資本金の額に応じて3万円から5万円かかります。合同会社は認証が要らないので、この費用がまるごとありません。

紙で定款を作ると、そこに収入印紙4万円を貼ることになります。電子定款にすればこれがかかりません。印紙税は文書に課される税金で、電磁的記録は文書に当たらない、という考え方によるものです。会社設立の費用を抑えたいなら、ここがいちばん効きます。
資本金そのものも用意するお金です。会社法の上では1円からでも会社設立はできますが、資本金は会社の元手なので、実際には当面の運転資金を入れることになります。登録免許税の計算のもとになるのも資本金の額です。ただし2,143万円くらいまでは最低額の15万円に収まるので、そこを気にして資本金を削る意味はあまりありません。
令和6年12月1日からは、資本金100万円未満で発起人が3人以下の自然人だけ、取締役会を置かない、といった条件を満たすと、定款認証の手数料が1万5,000円になる仕組みも設けられました。条件が細かいので、自分の会社設立が当てはまるかは公証役場に確かめてください。
出典(一次情報)国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」2026年9月15日確認
株式会社は資本金の1,000分の7で最低15万円、合同会社は同じ税率で最低6万円。
登記をすると、何が公開されるのか

個人事業と会社設立でいちばん性格が違うのが、この公開の部分です。開業届の中身は税務署の中にとどまります。登記簿は、手数料を払えば誰でも取れます。
登記簿に載るのは、商号、本店の所在場所、公告の方法、会社成立の年月日、目的、発行可能株式総数、発行済株式の総数、資本金の額、取締役の氏名、代表取締役の氏名と住所などです。定款に書いたことのうち、法律で登記事項とされたものだけが載ります。
自宅を本店にして会社設立をすると、自宅の住所が公開されることになります。代表取締役の住所も載ります。これを避けたい人のために、代表取締役等の住所を登記事項証明書に表示しない措置が設けられました。条件や手続きは法務局の案内で確かめてください。
公開されることには良い面もあります。取引先や金融機関は、登記簿を見れば会社の基本情報を確かめられます。個人事業だと、相手は名刺と本人の話しか材料がありません。会社設立をして登記をするというのは、確かめられる状態に自分を置くということでもあります。
もうひとつ、公開されるのは会社設立のときの情報だけではありません。あとから役員が替われば、その履歴も残ります。履歴事項全部証明書を取れば、一定の期間内に誰が役員だったか、本店がどこにあったかまで見えます。会社の来歴が積み重なっていく、ということです。
- 登記事項証明書は窓口での書面請求で600円。オンライン請求なら郵送520円、窓口受取490円。
- 内容を見るだけなら登記情報提供サービスで1件330円。ただし証明書としては使えない。
- どちらも誰でも使える。相手が自分の会社を調べることもできる。
出典(一次情報)法務省「登記手数料について」2026年9月15日確認
定款が要るかどうか、という分かれ目

個人事業には定款がありません。事業の内容も屋号も、自分の判断でいつでも変えられます。会社にはそれができません。会社設立のときに定款を作り、以後はその定款に従って運営することになります。
定款には、商号、目的、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額、発起人の氏名及び住所、発行可能株式総数といった事項を必ず書きます。これらは絶対的記載事項と呼ばれていて、どれか一つでも欠けると定款そのものが無効になります。
定款を変えるには、株式会社なら株主総会の特別決議が要ります。会社設立の直後で株主が自分ひとりなら手続きとしては軽いのですが、それでも議事録を残すことになります。変えた内容が登記事項なら、登記もやり直します。
つまり会社設立をすると、決めごとに手続きがついてまわるようになります。事業を増やすなら目的を足し、事務所を移すなら本店を直す。個人事業のときの気軽さはなくなりますが、その代わりに外から見て安定した存在になります。
定款があることは、面倒なだけではありません。共同で事業をする相手がいる場合、あらかじめ決めごとを書いておけるのは大きな利点です。誰がどれだけ出資したか、意思決定をどうするか、やめるときにどうするか。個人事業の共同経営ではあいまいになりがちなところが、会社設立では定款という形で残ります。
定款は会社設立のあとも使う
登記が終われば定款はしまい込んでいい、というものではありません。銀行口座の開設や許認可の申請で、定款の写しを求められることがあります。登記簿に載らない事項——事業年度や株式の譲渡制限の細かい定め——を確かめたいからです。
認証を受けた定款の謄本は、なくさないように保管してください。再発行には手数料がかかります。
出典(解説)弥生「定款とは?作り方と意味、記載事項をわかりやすく解説」2026年9月15日確認
株式会社と合同会社、どちらで登記するか

会社設立をすると決めたら、次は種類です。いま実際に選ばれているのは、ほとんどが株式会社か合同会社のどちらかです。登記と定款の手続きという面では、はっきり差があります。
合同会社は定款の認証が要りません。公証役場に行く工程がまるごとないので、日数も費用も減ります。登録免許税の最低額も6万円で、株式会社の15万円より9万円安く済みます。自分で会社設立をするなら、手続きの重さは合同会社のほうがずっと軽くなります。
一方で、外からの見え方は違います。株式会社という名前のほうが通りがよく、取引先によっては株式会社でないと取引しないという方針のところもあります。合同会社は出資者が業務を執行する形なので、あとから出資を集めて大きくしていく設計にはあまり向きません。
決め方としては、当面は自分か身内だけで回すつもりなら合同会社、外部から出資を受ける見通しがあるなら株式会社、というのが分かりやすい切り分けです。あとから株式会社に組織変更することもできますが、そのときは登記のやり直しになり、費用がかかります。
税金の扱いは、株式会社でも合同会社でも基本的に同じです。法人税の計算も、消費税の扱いも変わりません。だから、どちらにするかは手続きの重さと外からの見え方で決めることになります。会社設立の費用を抑えたい、早く登記まで済ませたい、という事情が強いなら合同会社が向きます。
どちらを選んでも、登記をしないと会社は生まれないという点は同じです。定款を作る、資本金を払い込む、登記を申請する。この骨組みは変わりません。違うのは、その途中に公証役場が挟まるかどうかです。
出典(解説)GVA 法人登記「合同会社とは?個人事業主との違いを解説」2026年9月15日確認
登記が終わってからも手続きは続く

会社設立の登記が終わっても、そこで終わりではありません。むしろ、登記事項証明書が取れるようになってから始まる手続きがいくつもあります。個人事業なら開業届1枚で済んでいたところが、会社では複数の役所に分かれます。

この中でとくに気をつけたいのが期限です。社会保険の手続きは期限が短く設定されていて、登記事項証明書を取ってからでは間に合わないこともあります。実務では、事情を説明して受け付けてもらうことが多いのですが、放っておいてよいわけではありません。
許認可が必要な事業なら、そちらの段取りも重なります。建設業や古物商のように、登記事項証明書と定款の写しを出して申請するものが多くあります。定款の事業目的にその事業に対応した文言が入っていないと、申請の前に定款変更と登記のやり直しが要ることもあります。会社設立の段階で目的の書き方を確かめておくのは、そのためです。
会社設立の日取りを決めるときは、登記の完了までの日数と、そのあとの届出までを見込んで考えてください。月初に設立したいなら、その日に登記の申請が受け付けられるように逆算します。定款の認証や資本金の払い込みは、それより前に済ませておく必要があります。
出典(解説)弥生「会社設立後にやることは?」2026年9月15日確認
まとめ

法人登記は、会社を作る手続きそのものです。個人事業の開業届が「始めました」という報告なのに対して、会社設立の登記は「これで会社ができます」という行為です。この性質の違いが、費用にも日数にも公開の有無にも表れています。
- 個人事業は開業届1枚、費用0円。会社設立は定款と登記が要り、株式会社なら登録免許税だけで15万円から。
- 合同会社は定款の認証が不要で、登録免許税も6万円から。手続きは軽い。
- 登記をすると、商号・本店・目的・資本金・代表者が公開される。誰でも確かめられる。
- 定款は会社設立のあとも使う。銀行や許認可の窓口で写しを求められる。
- 登記が終わってから、税務署・都道府県・年金事務所への届出が続く。
ここに書いた金額は2026年9月15日時点で一次情報にあたって確かめたものです。税金の損得や社会保険の負担まで含めた判断は、事業の見通しによって変わります。数字の比較が必要なら税理士に、登記の手続きそのもので迷うなら法務局の登記手続案内か司法書士に当たってください。
出典(解説)マネーフォワード クラウド会社設立「個人事業主の会社設立マニュアル」2026年9月15日確認
個人のままか、会社にするか。決め手は手続きだけではありません
ここまで見てきたのは、あくまで手続きの側から見た違いです。会社設立には費用も手間もかかりますが、その分だけ外から確かめられる存在になります。取引の相手が法人であることを求めてくるなら、判断はそこで決まってしまうこともあります。
会社にすると決めたなら、次は株式会社と合同会社のどちらにするかです。定款の認証が要るかどうかで、登記までの道のりがかなり変わります。どちらかに決まっているなら、その種類の設立登記申請書の書き方を扱った記事に進んでください。
登記のあとに待っている、税務・社会保険まで任せられる所
会社設立の登記が終わっても、税務署への届出や社会保険の手続きは残ります。定款の内容によって決算期も変わるので、登記と合わせて相談先を決めておくと迷いません。※弊社調べになります。
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